凧の話 翼友13号 OB会長 東 昭 凧にはいろいろな形があるが、典型的なのが、和凧の縦長の矩形凧と、洋凧のゲイ ラ・カイトと呼ばれる三角凧である。両者の決定的な差は次の通り: 前者は安定が悪く 揚げ難いが、糸目をうまく調節して揚れば、目の高さも適当で引きが強く、充分 凧揚げが楽しめる。これにして後者は、糸目が1本で子供でも容易に揚げられる 代わりに、いわゆる天井凧となって直ぐ首筋が疲れる程頭上来ると共に、引きが弱く て頼りない。 この差は何から来るかというと実はその平面形で、和凧はアスペクト比が1以下な のに洋凧は4もあって、これから揚抗比の小さい前者が仰角も小さくなって低い 高さに揚がるのに対し、揚抗比のやや大きい後者が仰角も大く、高い高度に揚るので ある。引き、つまり索の張力は、空気力=\sqrt{(揚力)^2+(抗力)^2} に比例するが、和凧は抗力が積極的に張力増大に役立っている。 縦長の矩形の和凧は、揚げの初期の大迎角時に、一対の大きい刹離渦を作って、 揚力も抗力も大きい。揚ってくにつれて迎角が小さくなっても、刹離は無くなら ないので、やはり抗力したがって張力は大きい。つまり和凧は流れの刹稚をうまく 利用する凧で、糸目が適当であば広い迎角範囲にわたって安定も良くなる。 これに対して横長の三角形の洋凧は、揚げ初期の大迎の刹稚は、アスペクト比が 大きい時そのままだとなかか対称にならず、一般に不安定になり勝ちである。だが 幸い可焼性に助けられて凧は持んで剥離が均一化して安定になる。頭上に来てから の小迎角では、グライダの曳航に似て、充分安定に飛行するという形で、実際糸を 外して、投げると、滑空機としても通用する。 NHKから正月番組として、富士山より高く凧を揚げた所を放映したいので、 手伝って欲しいと云われた。 いろいろ計算してみると、普通の凧では、とても高度4000m(富士山は3, 776m)迄は上らない。連凧にして上 げるしかない。しかし出来れば単一の凧でやりたいというので、どんな凧だった ら揚るかを当ってみた。 まず翼面積は約20m^2、そして揚抗比は10程度欲しいことが判った、そこで 考えたのであるが、そんな凧というよりグライダを今から作っている訳にはいか ない(余裕は1ケ月しかなかった)。そこで思いついたのが、一つはパラグライ ダ、もう一つは鳥人間コンテストの滑空機である。 前者は揚抗比が約5しかないが、重量が布で出来ていて約5kgと軽いので、ケ ブラーの索を使って目標の4,000m迄揚る見透しがついた。 後者は、鳥人間コンテストに出場したどこかのチームが機体を保存してくれてい るかどうかに関わっている。幸い、リコーのチームが材料を持っていて、協力し てくれることになった。約10日間で、翼面積約20m、揚抗比〓約20にはな るという機体を約30kgで作ってくれた。 実際に凧上げを年末の急がしい日に、朝霧高原で実施した。しかし実行日の2日 間風がほとんどなく、難かしい撮影となった。 凧の会の人達の持ち込んだ凧は、連凧で挑戦したが、獲得高度は1,000mに も満たなかった。一方リコーの滑空機凧は、風がないのでジープのウインチで引 張ることにした。地上はほとんど無風であったので、引くことは引いたのだが、 高度がとれない内に、カイティングと呼ばれる索と凧との連成横振動で地面に長 い翼端が接地し破損してしまった。風があるか、もっと引きが早ければ高度がと れて、機体が横に走っても大丈夫だったのに残念なことをした。 パラグライダは、出来合いの品物で揚げるのは絵にならないと採用されなかった ので、結局単一凧による高度記録は作ることが出来ずに終った。連凧は後日再挑 戦をし、風さえあれば放映日(1月2日)迄に4,000mを越える筈である。