それは生あたたかい夜であった。 市内の温泉旅館やビジネスホテルをすべて当たってみたものの、GWの週末 ということでどこも満杯であった。 しかたなくランウエイにとめてあるバスの中で一夜を過ごすことにした。 あたりは真暗であったので、近くに車を止めてヘッドライトで照らしながら 中へ入った。バスの中は一部の座席が取り外されて絨毯がひいてあり、 こたつまであった。そして一角には布団がうずたかく積まれていた。 これなら一応寝られると思い、布団を敷いて床についた。。。。 明け方頃であろうか、こたつの脇に人の気配を感じた。夜中に誰か やってきたのだろうか。たしかに誰かがいるような感じなので、 まだ眠い目を開けて気配の感じる方向を見ようとした。頭まで かぶっていた布団を払おうとすると、暖かい力によって再び布団が かけられ、頭を上げないようにとうえから押しつけられた。それは私に、 「まだ早いから寝ていなさい」と話しかけているようであった。 手を動かしてその力の源を確かめようとするも、対抗することはできなかった。 そして私を深い眠りの底へと導いた。。。。 まぶしい日差しで目がさめたとき、やはりバスには誰もいなかった。 寝ぼけていたのだろうか。たしかに気配は感じたことははっきり憶えている。 しかし、悪意はなかったようだし、あまり気にしないことにした。 翌日は湯本のペンションに泊まったが、その次の日は再びバスに 泊まることにした。民家から電気を引いてきたので、灯りもあった。 バスの中に入ると、こたつの横にすずめが一羽死んでいるのを見つけた。 気持ち悪いと思いつつも大自然の中へ帰した。昼間ドアを開けている ときに誤って飛び込んだのであろうか。その後、こたつに電気を入れて 足を伸ばしていると、こたつの中にキャラメルの箱くらいの大きさで何か 硬いものが足にさわった。何だろうと思って引きよせて見ると、また すずめの死骸であった。さっきの床に落ちていた死骸は外から 飛び込んだと言えるとしても、こたつの中で死んでいるすずめは いったいいつからここにいたのであろうか。おととい私の枕元に 現れたのは彼だったのだろうか。暗く狭いこたつの中で彼は一人きりで 淋しかったに違いない。さまざまな想いをいだきつつ、 大自然の中へと旅立たせた。 死骸を温めてしまったこたつはすぐに電源を切り、その晩は そのまま寝ることにしたが、もう夢枕には何も現れなかった。